8月21日(水) 初恋の彼女が生き返りました。/天沢夏月
ー高校生のとき、初めて恋をした。とても純粋で、それゆえに恥ずかしくもある。初めて口にした恋愛感情は、どっぷりと甘ったるい液に浸かっているくせ、酸っぱくて、ほろ苦く、それでいて最後に口の中を支配するのは、それらのどの味でもない。その複雑な風味を、言葉に言い表すことは難しい。
ー恋愛という感情を、言語化するのは難解だ。特定の誰かに惹かれること、誰かのことを強く想うこと、その人を自分のものにしたいと願い、行動すること・・・だけどそれはニュアンスの話であって、恋という感情そのものが引き起こす非理性的な衝動をうまく言い表してはいないように思う。
ー恋とは誰かが好きというよりも、誰かに好かれたいという気持ちとでも言った方が、当事者の感情には寄り添っているように思う。
ーそう、彼女に好かれたいと、何よりも強く強く願っていたあの年、俺は紛れもなく恋をしていた。
ーこれは仁義の話だ男と男の。あるいは、人間と人間だ。
ー乾杯、というかなんというか、むしろ気分は完敗である。
ー人と関わるということは、自分の脳の領域をその人に割くということだ。その分自分自身に割り振れる領域は減るのだと思う。他人と関わる人は、自分のことが疎かになる。少しずつ、自分のことが適当になる。
8月21日(水) もういちど生まれる/朝井リョウ
ー二リットルのアクエリアスの重さに、すこし硬くなる右腕が私の物なんだと思うと、そのたびいつもうれしくなる。
ー尾崎にはたいしたことじゃないって思っても、あたしにとってはたいしたことが、たくさんあるんだよ
ーいつまで子供でいていいんだろう。いつまで上手に思ったことを伝えられないままでもいいんだろう。たくさんのことができないまま、いつからあたしは大人になってしまうんだろう。
ー気分を盛り上げるためにお酒を飲むようになったのは、いつからだったろう。初対面の人と気兼ねなく話せるための架け橋がお酒になってしまったのは、いつからだったろう。ただ顔を合わせるだけで大声で騒ぐことができた学ラン時代をオレは思い出す。
ー自分は何か持っているって思う人と、自分には何もないって思う人と、どちらが上手に生きていけるのだろう。どちらがつらい思いが少なくて済むのだろう。
ー楽しすぎる瞬間は、真っ只中にいるとなぜだか泣きたい気持ちになる。両手では抱えきれないこの幸福は、早く過ぎてしまって思い出になってほしいと思う。
8月17日(土) 夜市/恒川光太郎
ーこれは成長の物語ではない。
何も終わりはしないし、変化も、克服もない。
道は交差し、分岐し続ける。一つを選べば他の風景を見ることは叶わない。
私は永遠の迷子のごとく独り歩いている。
私だけではない。誰もが再現のない迷路のただなかにいるのだ。
8月17日(土) ひと/小野寺史宣
ー大切なのはものじゃない。形がない何かでもない。人だ。人材に変わりはいても、人に代るものはいない。道は譲る。ペースも譲る。店のあれこれも譲る。でも青葉は譲らない。譲りたくない。自分よりずっと上にいる相手にも。自分よりずっといい条件を示せる相手にも。とはいえ、青葉の気持ちは尊重したい。ほかの何よりも優先したい。だから選択を強いたりはしない。選ばれたら全力で受け止める。それでいい。
ープラスが生まれたときより、マイナスが消えたときのほうが人はずっと嬉しいんだってわかったよ。一億円の宝くじが当たるより、一億円の借金がなくなるほうが、たぶん、うれしい。
ー人は空気なんて読めない。よく考えればわかる。そこそこ仲が良い友達が自分をどう思っているかさえわからないのに、空気なんて読めるはずがないのだ。
ー「人の誕生日にはしゃぐのはいいな」
「自分のじゃなく、人の誕生日にはしゃげるのはいい」
7月24日(水) 私は存在が空気
『少年ジャンパー』
ーゴールデンゲートブリッジ。うつくしく、荘厳で、世界的に有名な自殺の名所。その橋の入り口にはカウンセリングをすすめるプレートがはってある。飛び降りて着水するまでに4秒、時速にして120キロのスピードが出るという。水面にぶつかると全身骨折および内臓破裂などで死亡する率は98%。着水時に命があったとしても低い水温による低体温症でじきに死亡するという。確実に死ねる。だからその場所は人気が高い。富士山麓の樹海を抜いて世界一位の自殺の名所となっている。
『私は存在が空気』
ー空気に拡散していた私の身体性は、彼女の体温を感じているこの瞬間、いつもよりはっきりと輪郭をとりもどすのだ。
『恋する交差点』
ーきっと、何度でも、はなればなれになっても、おたがいをさがしだして、手をのばし、わたっていける。おなじことができる。だから、だいじょうぶだ。わたしたちはだいじょうぶなんだ。
『スモールライト・アドベンチャー』
『ファイアスターター湯川さん』
『サイキック人生』
(長編だと思って手に取ったため、短篇集だったことに拍子抜けした。表紙のいにお先生の描いた可愛い女の子が活躍するとばかり思っていた私は少し落胆。初めて中田永一という人の作品を読んだが・・・めちゃくちゃ読みやすい!そして面白い。なんだろう、感情移入しやすい、というか、キャラが生きている、というか、話が動いているんじゃなくてキャラが動いて話を作っている、ような感覚に陥る。漫画を読んでいるような感じ。あっという間に虜だ。タイトルを見ただけで、あぁ、あんな話だったな、とすぐ浮かぶようにストーリーどれもが印象深い。総じてどの登場人物にも不幸な境遇であるため、思わず応援したくなる、その後を見届けたくなる。今回の作品、超能力が軸となっていたのだが、大抵は異世界というか、現実離れしたような話になりがちなのに、超能力という異端なものを平穏な現実と繋げられていることが、読みやすさの所以だと思った。)
7月2日(火) 純喫茶とパンの本
「純喫茶の楽しみ」
・建築当時の空気感を残すその空間
・とっておきのオリジナルメニューや貴重な食器、インテリアの数々
・喫茶店の雰囲気を決定づけるマスターの表情や人柄
「喫茶店ってどんな場所?」
ー1人でも独りじゃない。いつでもそっと寄り添ってくれる場所。
ーその街や自分自身の物語が生まれる場所
ー”大切な人とお茶をする”という人生における句読点のような時間を過ごすことができる、日常と非日常が入り混じった空間
ー”夢”を楽しみながら語らえる場所
ーホッと一息、自分の時間
ー喫茶店という空間は人と人の繋がりを生むコミュニケーションの場でもある。
ー私のコーヒーを飲みながら、楽しく供に夢を語り合っていただきたい。
ー「ねえ、一緒にお茶しない?」これには「あなたともっと密な時を過ごしたい」という思いが込められている。アルコールで酩酊しているわけでもない素面の状態で、互いが等身大の自分を差し出すのだ。
ー誰かと喫茶店に行くことで、そこでしか得ることのできない日常と非日常の入り混じった、穏やかな幸福な時間を過ごすことができる。
ー目の前の人と一緒にもうちょっとだけ過ごしていたい。でも店を変えることで、時間の流れを途切れさせてしまうようなことは避けたい。そのタイミングで頼むナポリタンの存在は、喫茶店の軽食としての大義を、華麗なまでに果たしてくれるのである。
ー人生における句読点のような時間を過ごすことができる
ー純喫茶は空間を楽しむもので、インスタントにカフェインを摂取するならチェーン店のカフェで事足りる。カフェと喫茶店とじゃ話す内容も変わってくる気がする。
ー
6月26日(水) 平凡
ーそうしたい、じゃなく、パーセンテージが高そうなことを思い描く
ー憧れていることが自然と起こるきっかけを待つだけではだめだ
ー別れた相手には幸にも不幸にもなってほしくない。平凡になってほしい。