8月21日(水) 初恋の彼女が生き返りました。/天沢夏月
ー高校生のとき、初めて恋をした。とても純粋で、それゆえに恥ずかしくもある。初めて口にした恋愛感情は、どっぷりと甘ったるい液に浸かっているくせ、酸っぱくて、ほろ苦く、それでいて最後に口の中を支配するのは、それらのどの味でもない。その複雑な風味を、言葉に言い表すことは難しい。
ー恋愛という感情を、言語化するのは難解だ。特定の誰かに惹かれること、誰かのことを強く想うこと、その人を自分のものにしたいと願い、行動すること・・・だけどそれはニュアンスの話であって、恋という感情そのものが引き起こす非理性的な衝動をうまく言い表してはいないように思う。
ー恋とは誰かが好きというよりも、誰かに好かれたいという気持ちとでも言った方が、当事者の感情には寄り添っているように思う。
ーそう、彼女に好かれたいと、何よりも強く強く願っていたあの年、俺は紛れもなく恋をしていた。
ーこれは仁義の話だ男と男の。あるいは、人間と人間だ。
ー乾杯、というかなんというか、むしろ気分は完敗である。
ー人と関わるということは、自分の脳の領域をその人に割くということだ。その分自分自身に割り振れる領域は減るのだと思う。他人と関わる人は、自分のことが疎かになる。少しずつ、自分のことが適当になる。